2005年11月10日
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甥は老いたか、姪はまだかいな?

Written By: 遠野秋彦連絡先

 甥は執念深かった

 姪は美しかった

 その度合いが桁外れなので

 親戚一同は

 この二人をいつも話題にした

 甥が大学生のとき

 彼は夢中になった

 学生ロボット選手権に

 そして、姪はまさに若さの盛り

 彼女はとても美しく

 男性達に囲まれた

 甥は学生ロボット選手権に挑み

 そして負けた

 執念深い甥は

 勝利を誓った

 しかし困ったことが起きた

 甥はもう卒業が間近

 学生ではなくなれば

 学生ロボット選手権に

 もう出場できない

 甥は再び大学を受験した

 晴れて再び大学生

 今回は慎重に事を運んだ

 けして単位を取得せず

 ずっと学生でいられるように

 一方、姪は就職し

 社内で人気の美人OL

 ふと気が付くと

 いちばん偉い会長様のお気に入り

 甥は戦う

 学生ロボット選手権を

 しかし、やはり甥は敗退

 やがて8年が過ぎ

 大学は中退

 甥はまた大学を受験した

 なんという執念深さ!

 一方、姪は贅沢暮らし

 会長様の遺産で億万長者

 そして相変わらず美しかった

 いつまにやら姪は

 大統領閣下の愛人に出世

 国家政策にまで

 我が儘放題、口を出す

 まだ甥は戦う

 学生ロボット選手権を

 しかし、やはり敗退

 大学に入り直して

 まだまだ甥は戦う

 そして、すっかりお爺さん

 白髪を振り乱し

 ロボットを作る

 そしてついに勝利の日

 甥は学生ロボット選手権で初勝利

 勝利の栄冠

 甘い美酒

 その祝いの席に、姪も駆け付けた

 甥は、記憶にある通り

 若く美しい姪を見て喜んだ

 しかし、宴会が終わった後で気が付いた

 自分は白髪のおじいさん

 姪はどうして若いまま?

 甥はそれを質問した

 姪はにっこり笑って答えた

 吸血鬼は歳を取らないのじゃなくて?

 甥は悩んだ

 姪の言葉は冗談だろうか

 だが姪は笑って答えない

 それは執念深く追いかけたい次のテーマとなった

 でも、甥はすでにおじいちゃん

 それだけの時間があるだろうか?

 そこで甥は気が付いた

 もし姪が吸血鬼なら

 血を吸われれば不老不死

 甥の人生は終わらない

 まだまだ執念深く終わらない

(遠野秋彦・作 ©2005 TOHNO, Akihiko)

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